先日、とある男性と仕事の打ち合わせをしていたときのこと。その人は仕事もできておしゃれでかっこいい方なのですが、その日、彼の着ていたパーカーに私の目は釘付けになりました。パーカーの首元から出ている紐が、しめ縄かと思うほど太かったのです。
おしゃれなその方のことですから、あえて太いものをチョイスしたに違いありません。しかし私はその紐がなにかの間違いで彼の首を締め上げやしないか、ハラハラしっぱなし。おまけに彼が体を前後に揺らして笑うたび、目の前のダークモカチップフラペチーノに紐が浸かりそうになっています。
「こんな感じで、ゆるっとユーザーにアプローチしていきたいんですよ」 一生懸命プロジェクトの説明をしてくれる彼の言葉も右から左。終始気もそぞろだったため会話も弾まぬまま、ザラッとした気持ちを残してコーヒーショップをあとにしたのでした。
男性のファッションに関しては「似合っていればなんでもいい」と思っていた私。けれどその日を境に、「人を無闇に不安にさせない」ことも、おしゃれの重要なポイントだと痛感したのであります。
ということでなにげに最終回となる今回は、特別編として「彼のファッション」が気になる映画をご紹介しますよ!
一発目は、おしゃれ過ぎるおっさんが登場する「シングルマン」。
我が家の東芝レグザにこんなにも美しい映像が流れたことはないと断言できるほど、お洋服のみならず画面の端から端まで隙がない本作。恋人に先立たれ自殺を決意したおしゃれなおっさんは、遺言にこう書き記します。
「ネクタイはウィンザーノットで」。
どんな結び方なのかネットで調べてみましたが、私には普通の結び目となにが違うのかさっぱりわかりませんでした。
加えて、彼のクローゼットにはきっちりとプレスされた同型のシャツがずらりと格納されていました。このように清潔で折り目正しく伝統的なアイテムを身に着けている限り、決して人を不安にさせることはないでしょう。その一方で、こんなに完璧な身なりを相手にされてしまうと、自分もチャンピオンのスウェットでは許されないだろうし、目やにをつけたまま過ごすことも無理そうです。おしゃれな彼は羨ましいですが、かっこよすぎるのも息苦しいかもしれません(ちなみに本作の主人公はゲイなので、お相手は男性です)。
続いては、ティーンのファッションがまぶしい「DOPE/ドープ!!」と「ぼくとアールと彼女のさよなら」であります。
私が好きなのは、「DOPE〜」の主人公マルコムと、「ぼくとアールと〜」のアール。どちらもシャツを「あえて」上までピシッと閉めて着ており、お行儀良い感じが◎。金チェーンをしたりしていますが決してオラつかず、「文化系のストリートファッション」ともいうべき着こなしが堪能できました。自分が15歳若ければ、彼らに告白していたと思います。
そしてラストは、個人的にも大好きな「ラブ・アゲイン」。
突如妻から離婚を突きつけられたどんくさい夫が、クールな軟派男にファッション指南を請うところから物語はスタートします。夫であるスティーヴ・カレルはマジックテープ式の財布やニューバランス407を愛用する「ザ・おっさん」。そんなイケてない彼を哀れみの目で見つめつつ、「男を取り戻せ!」とハッパをかけて鼓舞するアドバイザー役ライアン・ゴズリングとのやりとりがすてきです。
そしてこそばゆい表現ではありますが、「本物の愛」についても考えさせてくれるのが本作のすごいところ。 一見、女をとろけさせる容姿とテクを持つライアン・ゴズリングが「男の中の男」のように見えますが、人を愛することにかけてはダサいおっさんの方がベテランであり、その真髄をわかっているのであります。
ビシビシにキメられても疲れてしまう&こっ恥ずかしくなってしまう自分としては、「ラブ・アゲイン」の夫のファッションにもっとも好感がもてました。身も蓋もない話ですが、結局、かっこいい人より優しい人が好みみたいです。皆さんはどんな「彼ファッション」が好みでしょうか。
小泉なつみ Natsumi Koizumi
きくちあつこ Atsuko Kikuchi
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