
小さい頃、両親が宅配ピザをとってくれることがありました。その時、決まって子どもたちのピザとして分け与えられたのは「ハワイアンデライト」。これはハムとパイナップルのピザでして、正直、その甘じょっぱい味わいがずっと理解できずにいました。
しかし今では酢豚のパイナップルも、冷麺に浮かぶりんごも、生ハム×メロンも大好物。さらに最近“組み合わせ”という点で驚愕したのが、巷で話題の「桃モッツァレラ」です。切った桃と適当にちぎったモッツァレラの上に、塩と胡椒をぱらり。さらに白ワインビネガーとオリーブオイルをたらりと落とし、レモンの皮をジャジャっと削ったら完成というシンプルな一品。
どの材料も知らないわけじゃないけれど、レモンは唐揚げに使用するものであり、桃はデザートであり、モッツァレラはトマトと食べるものだった。そんな風に知らず知らずのうちに食材の用途を限定し、想像力を放棄していた自分に、「桃モッツァレラ」が平手打ちをかましてくれたのであります。どんな味かはぜひ試していただきたいですが、ジューシィな桃の甘みとモッツァレラのミルク感、ビターなレモンピールなど、すべての食材の持ち味が活かされつつ、見事に調和した奇跡的な一品であります。
この話はお洋服にも通じるところがありまして。想像力の欠如や己のスタイルに迷いが生じた時、はたまた二日酔いの日などは、ボーダーにジーパンというアンパイ・コーディネートで押し通しがち。そんな時こそ、「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」のマーゴや、「ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール」のイヴから刺激を得たいものです。
マーゴは常にラコステのボーダーワンピ×毛皮コートですが、ラグジュアリーな毛皮にカジュアルなラコステを持ってくるのが憎い。マーゴの兄も背広にFILAのジャージをインしていて、思わずメモ。テネンバウム兄妹は、スポーツMIX上手であります。
そして「ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール」のイヴも、外しの達人。
特に心惹かれたのは、ヒョウ柄のワンピースにオッサンがスーツに合わせて履くような革靴をコーディネートしたスタイル。さらにここへ山高帽をONしているのですが、決してトゥーマッチではなく、“己流のオシャレ”になっているんであります。
そして「ダイアナ・ヴリーランド 伝説のファッショニスタ」も、“己”という個性が持つ美しさを教えてくれる1本。
稀代の天才編集者、ダイアナ・ヴリーランドにかかれば、バーブラ・ストライサンドのデカ鼻も、アンジェリカ・ヒューストンのド迫力ボディ&フェイスも、欠点ではなく個性。ファッションや人物のみならず、動物や自然など、ありとあらゆる対象物からインスパイアを得ようとする柔軟で開かれた感性が、ダイアナの“己流”を形作っているのかもしれません。
日本では未公開の「ドリスの恋愛妄想適齢期」も、激しくオススメの1作。
ヒロインのドリスは60オーバーながら、ボタンを繋げたネックレスや蛍光色のジャンプスーツを着こなし、「君はオリジナルだ」と若者たちから称賛を浴びていました。そんなドリスは普段から「モッタイナイ」のワンガリ・マータイさん風にターバンを巻き、柄×柄のコーデを貫いていて、彼女にしかできないオシャレがしっかりと息づいているのであります。
「桃モッツァレラ」しかり、ドリスのコーディネートしかり、人の心をハッとさせるものには、想像を超えるオリジナリティがあります。周囲から浮かないことにおいてボーダーは安心ですが、そこに“己”を感じさせるなにかがあれば、もっとお洋服は楽しい。
オシャレの秋ですし、お互い、ちょっぴり冒険してみませんか。私もこの原稿が書き終わったら、ダルダルのユニクロTシャツを脱いで出かけたいと思います。
小泉なつみ Natsumi Koizumi
きくちあつこ Atsuko Kikuchi
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